田園の平屋
建主の要望を前提としたうえで、住む家族の状況や歴史、そして敷地(場所)の状態や風土が、私の住宅デザインの種になります。また、 住宅は住む人の心身を癒やす場でありたいと考えているので、素材(自然材料)やディテール、ヒューマンスケールにこだわります。
結果的に、<和>の建築デザインになりますが、和=日本伝統的という意味だけではありません。さまざまな文化を吸収しながら特有の文化を積み上げてきた重層的な<和>でありながら、無駄や虚飾を省いて高度にデザインされた、なごみの<和>であることを目指し、住宅設計に取り組んでいます。
建主はもともと東京在住でしたが、自分たちにとっての田舎をつくりたいという想いを強く持ち、福島への移住を検討されていました。県内の不動産を回ったものの、紹介されたのは理想とは程遠い画一的な分譲地…。そこで私への家づくりの相談は土地探しから始まりま した。
田舎には土地がたくさん余っているように見えますが、手つかずの 自然を望みつつ宅地用の土地を見つけるのは至難の業。福島県の地図を広げながら土地探しを進める中で紹介されたのが、須賀川市 郊外にある里山の原風景が残る土地でした。建主は東京への定期的な車移動が必要だったことから、インター近くにここまで条件がそろった土地が見つかったのは奇跡的なことでした。
そうした環境での家づくりで重視したのは、里山の原風景にいかになじむかという点。加えて建主からの「あまり派手にしたくない」との要望を受け、スケール感を抑えるとともに、床や天井などは自然素 材にこだわりました。そのうえで、古い住宅を解体したときに手に入った古材を配したり、大きな無垢板から仕事用のデスクを造作したりと工夫することで、昔ながらの住宅の再現ではなく、田園風景になじむ、オリジナリティーのある家となりました。
リビングからは遮るものなく田園風景が広がる。苗が育って稲穂が実り、収穫を迎えるという営みのサイクルをそばに感じられる幸せ
体だけでなく心まで温める薪スト-ブの炎。火・水・雨・雪・風といった自然を 建築に取り込んだ
リビングの裏側にあるワ-クスペ-ス。吹上のレッドシダ-の天井を介してリ ビングとつながる
寝室には1畳半の小上がりを設けた。障子戸越しに裏庭を望み、四季折々の 風景を楽しめる
浴室の窓越しに、裏庭の自然との一体感が得られる
深く低い軒先にはチェ-ンの竪樋を設け、雨が小さな池に流れ込 むという自然をデザインした
田畑、木々の緑、広がる空…。探していた田舎の風景に平屋の住宅 が調和している
構造規模 | 木造・平屋建て |
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延床面積 | 163.97㎡(約49坪) |
主な外部仕上げ | 屋根/ガルバリウム鋼板、外壁/ジョリパッド 塗壁・屋久島杉板張、建具/玄関ドア:木製ドア、窓:アルミ樹脂複合 サッシ・木製サッシ |
主な内部仕上げ | 床/フローリング・タイル、壁/土佐和紙、天井/ レッドシダー |
暖房方式 | 薪ストーブ・エアコン・床暖房 |
工事期間 | 令和3年1月〜7月(約6.5ヵ月) |